第20回 クルマを停めて、吹雪を眺めた

守備範囲の狭さを痛感

 土尻川はあきらめるしかない。19号線はアップダウンが激しくスリップしやすいのだ。まして脇道ともなれば除雪も追いついていないはず。おまけに視界不良ではスコープが役に立たない。

 明科に差し掛かると雪が強くなってきた。19号線から山間に入ると路面が真っ白い。これはもう、一発勝負だ。お馴染の撃ち下ろしスポットに賭けるしかないだろう。

 道路わきに駐車。後部シートの装備を確認して前を向くと、吹雪はいっそうひどくなっていて、白い風景が広がっていた。風も強く、木の枝が震えている。しばらく待機したが、収まる気配がないので、双眼鏡を片手に様子を見に行くことにした。

 ガードレールをまたいで雪に足を踏み入れる。さほど深くは積もっておらず、これなら歩ける。視界もなんとか確保できているので射撃は可能。あとは、いつもの場所に鴨がいてくれれば...。

 1羽でもいいからと、祈る気持ちで探し回っても姿が見えない。どこに行ってしまったのかと周囲に目を凝らせば、150メートルほど先に十数羽の群れがいる。いつもは二カ所に分かれて休んでいるのだが、今日は固まっているのだ。ほんの150メートルなのだが、あの場所は道路から降りていく手段のない、鳥にとっての安全地帯になっている。

 いったん戻り、15分後にまた見に行った。まったく動いていない。今日はここで過ごすのが安全そうだと決めたようだ。これぞ野生の本能か。いい勘してるなぁ。

 そう思うと同時に、準備不足も痛感する。

 まだ時刻は8時。松本方面はさほどの降雪ではないのだから、安曇野や塩尻の鴨スポットを知っていれば、そちらに行けばいいのだ。犀川ほどではないとしても、探せば鴨はいるはず。犀川へ出猟できない日があるのはわかっていたのだから、天候に応じた選択肢を用意しておくのが賢い猟師というものだ。

 明科より長野方面にしか目が向いてなかったもんなあ。安曇野はよくドライブするし、川があれば鳥を探す習慣はついてきたけれど、具体的な猟場探しとなるとやったことがない。まして塩尻方面は、猟場の意識さえなかった。

 それにしても、この結末。ため息をついた後、なんだか笑いがこみあげてしまった。"最終日になんとかしようと考えるなんて10年早い"と、雪にからかわれた気分なのだ。

◇   ◇

<2年連続で不運でしたね。めげずに頑張ってください>

 ゲームオーバーのメールを送ると、宮澤さんが優しい返事をくれた。

 あきらめませんとも。初年度0羽、2年目は1羽。数字はしょぼいけれど、0と1とでは雲泥の差がある。初日の的中がなかったら、楽天家のぼくも凹みまくり、猟師引退まで考えたかもしれない。1は心の支えであり希望の数字なのだ。

 バンしか獲れなかった。半矢もした。絶好のチャンスを逃した。にもかかわらず、この3カ月間を振り返ったとき、出てくることばは、すべてが新鮮でエキサイティングだった去年とまったく一緒だ。

「いやー、楽しかったー!」

 負け惜しみではなく、心から。

今回のイラスト