第20回 クルマを停めて、吹雪を眺めた

 狩猟最終日(2月15日)の天気予報は長野市も松本市も雪模様となっていた。多少降るのは構わない。ラストデーなのである。長靴が雪に埋もれようと、冷たいだけのことである。ドカ雪にならないかぎり出猟しようと決めていた。

 去年は13日に降り出した雪のため、14日の中央本線が運転中止になり、家へ帰ることすらできずに東京で最終日を迎えた。今年は12日に松本に戻ってスコープ調整をし、準備を整えている。出猟が叶ったら、10時過ぎまでは宮澤さんと動き、その後は一人猟に切り替えて土尻川や犀川流域をまわるつもりだ。

 例によって、前夜はなかなか眠れなかった。

 あそこに鴨がいたら、こういう感じで接近して、落ち着いて狙いをつける。30メートル以上ならそのまま、以下のときは距離に応じてスコープの中心をズラさなければならない。途中、標的が動いたらどうするか。待つべきだ。動く標的を狙って当たったことなどないのだから。そのまま泳いで行ってしまったら、いったんあきらめて静止を待つ。対岸まで行ってしまうようなら、移動して撃てる場所を探す。チャンスは何度あるだろうか。3~4回は撃つとして、2回というところか...。キリがないのである。眠りについたのは午前3時近かった。

◇   ◇

 6時起床。カーテンを開けると曇り空。いまにも泣き出しそうだが、なんとかこらえている。着替えてコーヒーを飲み、頭が冴えるのを待って外に出た。

 松本の市街地が降ってないからといって、猟ができる保証はない。南北に長い長野県は、エリアによって天候もまちまち。『八珍』のある長野市のほうが、雪の量はずっと多いからだ。が、とりあえず出猟しよう。

 走り始めて5分、国道19号線に入ったあたりで小雪がちらついてきた。家の屋根にはうっすら雪が積もっている。宮澤さんの家のほうはどういう状況だろう。時計を見ると6時38分。寝ていたら申し訳ないと思いつつ、クルマを停めてメールを書いた。

<家を出ました。雪は降っていますか?>

 間髪入れず返信が来る。

<雪、えらいことになっています。去年の今日と同じです。猟は無理か>

 が~ん。去年と同じだというからには、積雪量も相当だと思われる。どっさり雪が積もると、宮澤さんは自宅だけでなく、店の駐車場の雪かきもしなければならず、猟どころではなくなるのだ。

 では、一人猟ならどうか。狙える場所は少なくなってしまうが、このまえ青首をはずした土尻川流域なら可能なのでは。的中の確率は下がるとしても、納得できる形で猟期を終えたいと思う。ダメもとで土尻川まで行き、引き返して明科で撃ち納め。これだ。

 その作戦で行こうと決めたとき、ぼくの気持ちを読んだようにメールが来た。

<大変な大雪です。こちらへはこないほうがいい。そちらでやってください。この冬一番の大雪>

 宮澤さんから「くるな」と言われたのは初めてのこと。積雪だけじゃなく、いま現在、激しい雪が降っているのだろう。数分後、電話が鳴る。

「吹雪いているから視界が悪いし、運転が危険です。まだまだ降りそうだから、やめといたほうがいい。いまどこ? 明科でできるようなら、そこでやってみて」