第18回 痛恨の三連敗

 犀川の支流である土尻〔どじり〕川にはいくつかの鴨スポットがある。川幅が狭くて浅いため、流れがわりあい穏やかだから居心地がいいのだろう。日によってムラはあるけれど、あれっと思うような場所にマガモやカルガモの群れがいるのだ。

 ポツポツと集落があるのでどこでもとはいかないが、ところどころ撃てる場所があって、距離的にも30メートル前後まで接近可能。犀川が不調なときに、宮澤さんが鴨を仕留めるエリアでもある。音が大きくて気を使う散弾銃より空気銃向きで、回収もしやすいから攻めてみればと勧められ、ときどきひとりで川沿いを流すようになった。

◇   ◇

 ある日、何気なく流していると鳥の姿を発見。静かに停車し、銃を担いで遠回りに歩き、川が良く見える位置まで行くと、マガモのつがいがいる。距離は30メートル程度。雪の壁の後ろに隠れられ、標的に気づかれにくい絶好のポジションだ。念入りに三脚をセットし、青首を狙うことにした。

 鴨は無警戒。浅いので回収時は川に入っていけばいい。いやー、これは当たっちゃうなあ。念願の青首。しかも単独猟。帰りに八珍へ寄って、宮澤さんに見てもらおう...。

 かつてないほどのビッグチャンスに胸が高鳴る。頭部を狙い、引き金を絞った。

 しかし、これが外れたのである。飛び立つ鴨を見ながら、ぼくは雪の上に寝そべった。撃つ瞬間、指に力が入って銃口が動いたのだろうか。こんなチャンスを逃すなんて、腕が悪いにもほどがある。

 土尻川を離れ、犀川を松本方面に走る。くるときより鳥の姿が増えた気がし、橋のたもとのポイントを双眼鏡で覗〔のぞ〕き込んだ。いる。カルガモが2羽、突き出した木のそばでじっとしている。さっそくクルマを停め、ひとり作戦会議に入った。あの場所にはちょっとした小道があったはずだ。鴨は隅っこにいるのでタモ網で回収できそう。問題は雪。大量に残っているようなら、ほぼ100%感づかれておしまいだ。

 ゆっくり準備をした。警戒さえされなければ、鴨はあちこち移動しない。慌てることはないのだ。弾を装填〔そうてん〕し、三脚の脚を伸ばしてすぐセットできるようにしてから歩き出す。幸い、雪は深くなかった。周囲にまったく人影はなく、クルマも通らない。半歩ずつ前進。足音を立てないように細心の注意を払う。

 邪魔が入らなかったせいもあり、25メートル付近まで近寄れた。鴨たちは寝ているのか、身じろぎもしない。三脚では高さが足りなかったので、木の幹に寄りかかって射撃体勢を整える。それでも鳥は気づかない。運がいい。今度こそもらった...。

 これがまた外れたのである。撃つ瞬間も、指先に力を込めるのではなく、指全体で引っ張る動作をしたつもりだ。これといってミスがあったとは思えない。どうにも納得できないのは、鴨が飛び立つタイミングがワンテンポ遅れたことだった。危機一髪という感じなら発射直後に大急ぎで飛ぶのだが、敏感な鳥が動いたのでついていった感じなのだ。そういえば、撃ったときに弾が水面を叩くところが見えなかった。ギリギリで外したなら、付近にしぶきが上がるはずだ。