第19回 蜂蜜屋とジャム屋と猟師のコーヒーブレイク

 2月13日は朝から出猟し、鴨を狙いながらスコープの具合を確かめた。当たらないということは、まだ合っていないのか、それとも腕のせいなのか。さっき、いい感じで撃てたときには鴨の近くで水しぶきが上がった。高低は問題ない。右に逸れたのでそこだけ調整し、それ以上いじらないことにした。

 何カ所かまわっているうち正午になり、宮澤さんから教わった、ほぼ確実に鴨がいる場所に行く。藪をかきわけ、雪に足を取られつつしばらく歩くと、50メートルプールほどの平地があって、その向こうにある竹林の先を犀川が流れている。途中の橋の上から双眼鏡で覗〔のぞ〕いたら8羽確認できた。

 ここへ来るのは、まだ雪のなかった12月初旬以来だろうか。点々と残っているのは鹿の足跡のみ。歩幅が広く、ゆっくり歩いている。猟師はしばらく入ってないようだ。竹林越しに撃つのは散弾銃には不向きであること、回収方法が難しいことが理由だと思う。空気銃なら、うまく近づくことさえできればなんとか狙える。鴨キャッチャーを使えば回収も可能だろう。

 デイパックに回収道具と三脚を入れ、銃を担いで歩く。たちまちズブズブと足が埋まり、見通しの甘さが露呈。ひとりのときに無理は禁物だと引き返し、雪の上にシートを広げて座り込んだ。気温は2度。風もなく、暖かな日差しがある今日は寒さを感じない。

 スコープで素早く狙いをつけられるように、銃の頬づけ練習を気が済むまで繰り返す。当たったと仮定して30メートル走り、タモ網を伸ばして回収にあたる練習もした。こういうのもやっておかないと、いざ本番で網が枝に引っかかったりしそうだ。人目に触れるとバカみたいな姿だが、気にせずやれるのがいい。

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 ひとしきり自主トレに励んでいたらもう午後2時。宮澤さんに連絡し、お茶でもしようということになった。

 信州新町にある『コミュニティカフェみゆき』に入る。宮澤さん行きつけの店で、みゆきさんはカフェ店主にしてイラストレーター。陶芸もセミプロ級で、自作イラストを焼き付けた食器の展示もしている。『八珍』の看板に使われている宮澤さんの似顔絵も、みゆきさんの作品だ。

 コーヒーを注文して席に着くと、丸山純一さんという若い男性が会話に参加してきた。仕事の傍ら、趣味と実益を兼ねて蜂蜜づくりをしているという。ミツバチの生態や農薬散布の影響、蜂蜜の作り方など、すべての話が興味深い。

 と、今度は近郊の集落でジャム店を営む方が来店。みゆきさんが「こっちにくれば?」と声をかけ、すぐに打ち解けた話になる。定年退職を機に夫婦で長野県に移住して10年。ぼくにとっては大先輩みたいなものだ。どのようにして商売を成り立たせていったのか、ポイントは何だったのか、経験者に直接話を伺う機会を得た。宮澤さんや丸山さんといった地元組にとっても、ジャム屋さんに移住エピソードはおもしろいようで、どんどん会話が転がって尽きることがない。