第17回 犀川の鳥たち

 国道19号線を松本から長野に向かって走ると、奈良井川と梓川が合流した犀川が、安曇野・大町を通ってきた高瀬川と一緒になって、より大きな流れを形成していく様子がよくわかる。

 前にも書いたが、ぼくは川面をちらちら眺めながら猟場へ向かうドライブが好きだ。山間部を流れる犀川は、うねるように谷間を進む急流もあれば、川幅が広くなって静寂さをたたえる平地部、流れが止まるダム湖、ダムで水量が少なくなって朝方は凍り付く箇所など、さまざまに表情を変え、見ていて飽きない。

 でも、一番気になるのは鳥がいるか。1年目だった昨年はマガモとカルガモの区別さえおぼつかなかったが、今シーズンは多少進歩し、多くの鳥が目に入るようになってきた。脇見運転は危ないので、時間があるときはクルマを停め、グローブボックスから双眼鏡と野鳥のガイド本を取り出して、何がいるかを確認する。今回はそんな鳥たちについて書いてみよう。

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 川にいる鳥で最高の獲物はマガモだ。中でも嘴〔くちばし〕が黄色く後頭部が緑色で遠くからでも見分けがつくオスは青首と呼ばれ、味の良さに定評がある。動物と同じく、鳥も派手なのはオスなのだ。全身茶系統のメスとつがいでいることが多く、10羽程度の群れでいることもよくある。

 鴨は夕方以降、水田や浅い水辺で草の実とか穀物を食べ、水面にいるときは基本的に休憩時間。明け方、川に戻ってくるところを待ち伏せする猟や、鴨笛やデコイ(模型の鴨)でおびき寄せる猟もある。犀川では見かけないが、凝る人は待機用の鴨小屋まで作るそうだ。簡易版として、川岸にテントを張って待機する方法もあるという。いまかいまかと夜明け(狩猟開始時刻)を待つ体験、一度はやってみたい。

 カルガモはよくいるが、ヒドリガモも犀川にはよく越冬に来る。やや小ぶりで、オスの頭部は赤褐色にクリーム色のライン。一度狙ったが、距離が近くて気づかれ、撃つ前に飛ばれてしまった。

 コガモは体長40センチ未満で、日本で生息する淡水鴨で最小。群れで動くので発見しやすく、犀川ではお馴染の顔ぶれだ。逆にいそうでいないのはヨシガモやオナガガモ。

 今年の特徴は、例年見かけることのない鳥が群れで飛来してきていること。ぼくが獲ったバンのほか、オオバン(非狩猟鳥)やキンクロハジロである。キンクロハジロは頭と胸、背中が黒く、腹が白いのでよく目立つし、狩猟免許の試験にもでたので、初めて見たとき「おお!」と盛り上がった。でも、宮澤さんに話すと「ああ、スズガモに似たやつね」とそっけない。数年前まで、犀川流域でハジロ類を見ることはなかったという。食べたこともないと言うので、一緒に味見する目標ができたが、シャクなことにこの鳥、禁猟区のダム湖に群れていて、他では全く見かけないのだ。

 以上が、犀川で猟師が狙う鳥たちだ。種類は限られているので、いさえすれば発見は難しくない。川面を眺めたときに輪っか状のさざ波が立っていたら、そのあたりに鳥が泳いでいる。川岸を眺めて違和感を感じたときも、だいたい何かがいる。

 流れが急なところでも、鳥がいるところはエアポケットのように穏やかだ。木がせり出していたり、そこだけ地形が奥へ引っ込んでいたり、隠れやすいところを見つけてからだを休めている。渡り鳥は春になればまた飛び立つので、長時間の飛行に耐えうる体力をつけなければならないのだ。そして、来シーズンになれば再び、ここに戻ってくる。

 どういうアンテナを持つのか、鳥たちは好む場所へ正確に戻ることができるらしい。宮澤さんに聞いたのだが、千曲川の支流に、毎年そこだけカルガモが飛来する場所があるそうだ。こんなところに? と首をひねるようなところなので、あれは同じ鳥がやってきてるに違いないと言う。

 となると、キンクロハジロが急に増えたことにも理由があるように思える。パッと見ただけでも100羽はいるのだ。これまで越冬していたところが使えなくなったのか、風向きや気温の関係なのか、何か理由があるだろう。いつも同じに見える川も、年ごとに集まる顔ぶれが微妙に変わり、それにつれて猟場も変化する。40年も猟をしている宮澤さんが、まったく飽きないと言うのも頷〔うなず〕ける。