第23回 狩猟は地域おこしの役に立つか

自分の常識は他人の非常識

 プロジェクトを軌道に載せつつある井野さんは、のんびりしているようで忙しい。これはというイベントがあれば県外だって足を運び、狩猟者、ジビエ関係者、各地のNPO団体などとの交流を図る。村の職員として祭りやさまざまな行事への出席も欠かせない。その努力がプロジェクトの推進力となり、村民の理解を得ることにつながっていく。

 聞いていると、とてもスムーズに物事が運んでいるように感じる。井野さん自身の行動力や、愛されるキャラクターのせいもあるけれど、NPOで3年間働いていたことが大きな助けになっているそうだ。

「私はもう5年、ここにいるんです。もし、2年前にいきなりきていたら、具体的な活動までできていたかどうか自信がありません」

 地域おこし協力隊は、総務省が音頭をとって2009年に始まった。最大3年間の任期中、隊員は住居や賃金を保障され、地域協力活動に従事する。ここ1、2年で認知度が上がり場所にもよるが、人気のある地域では競争率も高くなっている。その地域だけでは行き詰っているところへ外から知識や経験を持ち込むというのは、意義のあることだと思う。

 でも、3年経ったら雇用は切れる。協力隊員はそれまでに自立の足掛かりをつかまなければ地域に定着できない。これが難問で、任期中あるいは終了後、地域を去る人も多いと聞く。不慣れな土地に乗り込み、3年間で結果を出すのは簡単じゃない。

 ぼくは井野さんの活動に、ひとつの可能性を感じる。狩猟は地域にあたりまえにあったが、鹿などは肉さえたいして食べられていなかった。イノシシならともかく鹿なんて。まして皮なんて。内側の価値観はそういうものだ。彼女が持ち込んだのは、新しい価値観なのだ。

 狩猟をやりたい都会の人が隊員となり、うまく地元猟師と馴染むことができたなら、そこに新しい仕事が生まれる可能性が芽生える。なぜなら、地元猟師にとってあたりまえのことでも、外から見れば新鮮だったり値打ちのあることはあるはずだからだ。わざわざ東京から旅費を使って鹿の解体を見に来る人がいるなんて、日常的に解体をしている猟師は考えないだろう。肉を獲り、加工し、業者に売るだけがすべてではないのだ。

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 狩猟サミットでは、井野さんのほかにも何人か、地域おこし協力隊で活動する人たちに会った。彼らはそれぞれの地域で、持てる力を発揮しているだろう。狩猟という文化を使って何ができるのか、成果を楽しみに待ちたい。 

  今回のイラスト