第24回 鷹匠〔たかじょう〕に会いに行く

わずか5秒間のために

 鷹匠になるきっかけは小学校6年生にまでさかのぼる。

「もともと野生の鳥が好きだったし、なかでも猛禽類はカッコ良くて、憧れみたいな気持ちがあったところへ、雑誌で鷹匠の記事を読み、すごい人がいるものだと。その思いは強くなる一方で、高校を出た頃かな、名人に会いたくなって山形県まで訪ねて行ったんです」

 情熱と行動力。言うは易しだが、新幹線でスイスイいける時代ではなかった。しかも石坂さん、何度も行くんだ。興味の強さが半端じゃない。

 名人の弟子とつきあいが始まり、そのうち長野県内の鷹匠を紹介してもらって技術を学んだ。東京にも知り合いが増え、当時まだ存命中だった"最後のプロ"、昭和天皇に仕えた花見薫氏の技術を後世に伝えようと結成された『日本放鷹〔ほうよう〕協会』にも参加。本格的に鷹匠への道を突き進む。伝統的な鷹匠の生き方を、山形の名人や花見氏と会うことで吸収できた石坂さんは、鷹と人生を共にする心構えみたいなものを肌で感じることにギリギリ間に合ったんだと思う。だから、結婚しようと父親になろうと、探求心の土台がしっかりしていて揺るがない。

「訓練は野生の鷹を捕まえて仕込む方法と、ヒナから育てる方法があります。難しいのはもちろん野生から。足皮をつけて真っ暗な小屋で10日間ほど飲まず食わずにして体力を落とさせ、人間の手から餌を食べさせる段階から徐々に馴らしていく。技術を仕込み、猟に使う状態にもっていくには40日から2カ月かかるね。鷹も大変だけど、人間も根気がいりますよ」

 十分仕込んだつもりでも、逃げていかれることもある。鷹は手ごわい。だから、やりがいもある。

 狙うのはおもに鴨だ。いかに獲物に近づくかが勝負の分かれ目。鴨だって必死である。追い出しのタイミングが数秒遅れたら、鷹が嫌いな水に潜られたり、飛んで逃げられる。加速のついた鴨は速い。飛び立った瞬間でなければ、オオタカであろうとも捕獲率はグッと低くなる。

「追い出して5秒かな。それで捕らえられなければオオタカは追うのをやめちゃう」

 その5秒を実のあるものにするために、鷹匠は技を磨くのだ。

「瞬間的な判断になります。鷹を合羽〔あわ〕せるって言うんですけどね」

 絶好調時でも、半日で4羽も獲れば鷹も疲れる。いいタイミングをつかめず、収穫なしに終わるときもある。でも、それは仕方がない。失敗したって、そこから何かを学んで次回に生かせばいいのだ。

 鷹好きはいるものの、野生の鷹を捕獲するのが困難になったいま、石坂さんはブリーディング(繁殖)に力を注いでいる。競走馬や伝書鳩もそうだが、鷹の世界でも血統を基にした交配によって優れた血を伝えていくことが行われているのだ。大富豪ならいざ知らず、個人でそれを追求しようなんて...。鷹狩だけでもマニアックなのに血統にまで足を踏み入れたら、もう戻ってこられないよ。

 モニターからまたメスの声が聞こえた。すかさず見に行くが、固定カメラがとらえているのは、身ごもったときに産卵するであろう場所である。うまくいくといいがなあ。

◇   ◇

「鷹狩、見たいでしょう。うまく獲れるかどうかわからないけど、シーズンが近くなったらまたいらっしゃい。案内します」

 帰り際、石坂さんの口から待望の言葉が出た。猟師になりたいと思って始めた鳥撃ちだが、まさか鷹狩をそばで見られるとは考えたことがなかったのだ。銃ではなく、鷹という生きた"飛び道具"で鴨を狙う伝統的な猟とはどんなものなのか。

 またひとつ、来シーズンの楽しみが増えた。

今回のイラスト