第26回(最終回) 鳥獣被害対策の前線で(後)

"防衛大学"を作ろう!

 猿の被害を減らすには、住民の関心を高め、地区全体で取り組むべき。ここまでは教科書的な考え方だが、根橋さんはおもしろい構想を持っている。猿対策を川島地区だけの問題としてやるのではなく、モデル地区のような設定をして、外部の専門家に意見を求めたり、猿で困っているほかの地区と連動して取り組もうというのだ。

「自分たちの活動に興味を持つ人がいて、動向を見られている。そんな状態を作り出せれば、ヤル気も出てくるし、なまけてもいられないじゃないですか。定期的に集まって対策会もやっているけれど、地区の人間だけではアイデアにも限界があります。もっと情報発信し、情報収集し、より多くの人と環境問題を考えていきたい。それで私、"防衛大学"を作ろうかと思って。正規の学校じゃないですよ。学びながら地域を守るための講座のようなものです」

 かつては山に人が入り、そのことが動物の侵入を防いでいた。といって、過疎化の進むいま、昔のようにやれと言われてもそれは無理。だとすれば現実的に、いまできることを考えていくしかない。その知恵が浮かばなければ外部に手助けを求めるのが有効だ。なぜなら、川島区の問題は、他に地区にとっても他人事ではないからである。

 調査技術のみならず、他地区の動向にも詳しいBO-GAは、そこでコーディネーター的な役割が果たせるだろう。ビジネスとして考えたら儲からないと思う。潤沢な予算を持つ過疎地域などそんなにない。でも、それはそれとして、やるんですよね市川さんたちは。

「はい。まぁ、お金も大事ですが(笑)、根橋さん、がんばってますから、我々もできるところは協力しないと」

 ぼくもまた、ここにきたい。猿の被害を減らす役には立たないかもしれないが、雑草取りを手伝うことや、車を降りて猿を追い払うくらいはできる。それに、ここにはいい川があるのだ。根橋さんに訪ねたら、冬場はカルガモがいるとのことだし、鳥撃ち猟師はいないそうだ。不審者と間違えられちゃいけないから、事前に連絡を入れて、と。

「いいですよ。ついでにお茶でも飲みにいらっしゃい」

 そうしよう。首尾よく鴨が獲れたら一緒に食べたいし、畑の様子も見てみたい。イノシシがどのような食べ方をするのか。猿はどうなのか。話を聞いてある程度分かったけれど、現場を見たらもっとよくわかる。わかれば関心が深まる。深まれば、自分にできることはないかと考え始める。

◇   ◇

 我が家ではこの春、市民農園の小さな畑を借りた。被害といっても鳥くらいかもしれないが、作物を育てることで、せっかく育てた野菜が台無しになってしまう気持ちが想像できるようになるだろう。

 それは、とてもちっぽけなことだ。狩猟免許を取得して2シーズン、ぼくは害獣駆除活動どころか鳥を獲ることさえままならないレベルにいる。だから、せめて無関心にならないようにしたい。

 猟師をやってみて良かったなと思うのは、鳥を食べるときばかりではなくて、自然の中に身を置く自分なりの理由を見つけられたことだ。遠く眺めているだけだった山に足を踏み入れて、強風に枝がしなる音や、生き物の鳴き声を間近で聴ける。こんなにおもしろい体験は、他にちょっと見当たらない。

 だから、ぼくは懲りずに来シーズンも猟に出よう。そのうちいいこともあるさと気楽に構えて。

*今回で連載は終了です。約半年間、お読みいただきありがとうございました。

 この連載をまとめた単行本を信濃毎日新聞社から発行する予定です。

今回のイラスト