第1回 初シーズンを振り返る

 秋の気配が漂い始める9月半ば、知り合いの猟師に会う機会があった。

「いよいよ狩猟シーズンが迫ってきたなあ」

 気が早い。長野県の狩猟解禁日は11月15日。まだ2カ月以上先だ。しかし、気持ちはよくわかる。ぼくも同じだからだ。狩猟シーズンは年に3カ月しかないのだが、2月15日の最終日を終え(害獣駆除にかかわる人は、駆除期間がその後に設けられるのでさらに長くなる)、猟期終了の手続きを完了して、やっと一息。信州の春は本当に快適で、ゴクラクじゃあ、なんて喜んでいる間に夏がやってくる。強い日差しと乾いた空気。朝晩のさわやかな風。最高じゃあ、なんて感激しつつ、野へ山へ繰り出すうちに日差しがだんだん和らいでくる。

 と、ふいに思うのだ。また冬がやってくるな、と。もちろん秋だってある。見事な紅葉、そしてキノコ狩りの季節でもある。でも、猟師としてはその先にある冬をイメージせずにいられないのだ。ベテランにしてみれば「腕を撫(ぶ)す」というところだろう。セカンドシーズンを迎えるぼくも、冬の到来が待ち遠しい。

◇   ◇

 昨年の秋、ぼくは狩猟免許や銃砲所持許可の取得に奔走していた。2012年の夏、東京から長野県松本市に一家で移住し、そろそろ慣れてきたところで、松本にこなければできなかった何かを始めてみたいと考えたのだ。猟師が減っていることや、鹿やイノシシによる被害が増えていることを聞き、狩猟に興味が出てきてしまった。そこで、自分も資格を取って猟師になろうと思ったわけだ。試験をパスしてからは空気銃を購入し、ガンロッカーを装備。警官が家までチェックしにきたりもした。大きなトラブルもなく進んだのだが、松本に戻るたびにやることが山積みで、そのすべてが初体験。右往左往しているうちに秋が終わっていた印象がある。

 資格審査に時間がかかり、猟師デビューできたのはクリスマス明けの2013年12月26日。東京と松本を行き来する生活のため、しょっちゅう出猟とはいかず、見学を含めてもわずか5回しか出猟できなかった。鳥撃ちに絞り込んでやってみたが、結果は猟果0羽。射撃の難しさを思い知らされることとなったぼくは、大雪のため出猟中止となったシーズン最終日、このままでは終われないと心に誓ったのだ。

 もちろん、カモやキジが獲れなかった悔しさもある。鹿やイノシシなど、大物猟の現場に立ち会えなかったのも残念だった。でも、それだけじゃない。猟師の資格を取って冬の山や川をウロウロするうちに、ぼくはどんどん猟が好きになっていったのだ。早朝から出陣しても、発砲したのは3発。すべて外れ、カラダは冷え切り、家族に「また収穫ないの?」と言われても、楽しくて仕方がない。全然ダメなのに、ダメなりの満足感みたいなものがあって、つぎこそはと意気込んでしまう。

 資格を取ったから猟師なのではなく、失敗や成功を積み重ねることで、だんだん猟師らしくなっていく。ぼくはまだ狩猟についても猟師についてもわかっちゃいない。すべてはこれからなのだ。