第16回 はじめての巻狩り(後)

激闘3時間半の成果は?

 ロケット花火がパーンと乾いた音を響かせ、巻狩りが始まった。

 ほーい、ほいほいほいほーい。ほーい、ほいほいほいほーい。景気よく叫びながら、一歩ずつ慎重に雪道に足を踏み出す。楽な方向に行くと下りがちになるので、少しキツく感じるくらいでちょうどいい。スタッフの姿を見失わずについていくことに集中した。

 上のほうからは銃声がいくつか聞こえた。セコの動きに反応して飛び出してきたところを狙ったのだろうか。獲物だって必死だから、撃つチャンスはそう多くないはず。ぜひ仕留めてくれと思う。もしもイノシシが死に物狂いで向かってきたら...、死に物狂いで反撃され、傷を負う可能性はいつだってある。

 30分経過。休みを入れながら、上下の人影を探すが、見失うことが増えてきた。急ぎ足で上に追いついてくも、すぐにまた離されてしまう。いかん。脚力の差に経験不足が加わり、一定の距離が保てないのだ。

 また銃声が聞こえた。猟は続いている。ラインは乱れているとしても、せめて声を出して参加しなくては。

 ほーい、ほいほいほいほーい。うっしゃぁ、ほれほれほれほれ。ほーい、ほいほいほいほーい。えんやこら、こんちくしょー!

 威勢がいい割にちっとも足が動かないが、それは仕方ないのである。さっきから、ぼくは数メートルの滑落を繰り返し、ヒザまで雪に埋まり、にっちもさっちもいかなくなっているのだ。自分ではわからないが、きっと驚くほどゆっくりとしか移動できていないのではないか。空調の効いたオフィスで「害獣駆除のためにも、もっと猟師にがんばってもらわないと」などと言ってる人は、一度セコをやってから発言してもらいたいものだ。

「おーい。こっちまで来れますかー」

 遠くからスタッフの声が聞こえた。どうやら巻狩り終了らしい。

 ここからは里までの下り。沢があったので、それを伝って行く。相変わらず雪に足を取られるが、苦手な登りがないので気分的にラクだ。安心感も手伝い、下り切ったときにはすっかり元気になっていた。気になる猟果はどうなっているだろう。

「無線で、仕留めたようなことを聞きましたが。猟師さんに訊いてみましょう」

 麓のほうでタツマを担当した面々に訊くと、鹿もイノシシも獲れたという。

「鹿1頭にイノシシ2頭で、計3頭かな」

 やった。自分が役立った実感はまったくないけれど、猟果ありと聞いて、疲れが吹き飛ぶ。獲物を積んだクルマが戻ってきたので覗き込むと、体長160センチ、推定110キロの牡鹿と、イノシシの親子がいた。イノシシはぼくが見かけたヤツに違いない。

 反省会では、鹿とイノシシの目撃数が報告された。鹿は1、2頭逃がしたようだ。前日までのチェックで、鹿の群れがいると聞かされていたが、すでに移動した後だったことになる。山から山へ、動物たちは食べ物を求め、動き回っているのだ。

 生態をつかみ、対策を打つ。駆除を行い、徐々に個体数を減らす。同時進行で、鹿やイノシシの肉を有効活用するための"産業化"も進めていく。そのためには、猟師の増加と若返りが求められ、行政による経済的なサポートも欠かせない。ジビエ料理の普及には、消費者の理解と協力も必要になる。害獣問題は一朝一夕に解決するものではなく、計画的に取り組まないとどうにもならないことなのだ。

◇   ◇

 手伝えることがあれば何かしたいが、この体力ではなあ。まず、斜面を歩けるようにならないと。パンパンになったふくらはぎをさすりながらボヤいていると、お世話になったスタッフが言った。

「夏になったら山歩きしませんか。良かったら私が案内します」

 オフシーズンにやることが、またひとつ増えてしまったよ。

今回のイラスト