第2回 後輩ができた!

止まらない、猟の話

「動機は獣害駆除です。移住して以来ずっと気になっていました。ここでやっていく以上は避けて通れない問題ですし、やってみようかと」

 お客さんに猟師がいて勧められたという予想は外れた。となると中野さん、猟師の知り合いはいないことになる。害獣駆除メンバーになるには猟友会に所属しなければならないので、地元猟師と付き合いつつ、実践経験を積むつもりだ。

「まだ挨拶には伺っていませんが、散弾銃の購入先などについてアドバイスはしていただいてます」

 40歳なら若手の部類だし、環境を守ろうとする意気込みもある。自営業で時間的な融通も利きやすい。家族の理解はどうだろうか。

「銃を家に置くのは怖いみたいなので、銃砲店に保管してもらう方向で考えています。ぜひやれとは言いませんが、反対もされない状態かな」

 十分だ。猟友会にしてみれば「有望新人現る」といったところだろう。無事にデビューして鹿やイノシシの肉が手に入ったらいつでも呼んでくれ...、そういうことじゃないか。銃の選び方やクルマのことなど、中野さんには不安な点がいくつもある。聞いていると、すべて昨年、自分が通ってきた道である。

「警察が家にまで来るそうですけど、自宅はマンションなので近所の聞き込みで誤解を受けたら嫌ですよね」

 わかる。終わってみればたいしたことなくても、初年度は初体験の連続だから資格を得るだけで、ものすごく消耗するのだ。大丈夫。中野さんは自宅に銃を置かないし、柔和な風貌だから危険人物と思われている可能性もない。心配だったら大家に事情を話しておけばいいんですよ。警察はまず大家のところに行きますからね。もちろん家賃滞納なんてしてちゃいけません。ビシッと払っておくことが肝要です。

「はぁ、なるほど。あと、中古銃についてですが...」

 中野さんの質問は途切れず、つたない答えを真剣に聞いてくれる。ぼくには華々しい猟果の話はできない。経験が乏しいので技術的に役立つ会話もできない。それでもどこまでも話が止まらない。ビギナーに必要なのはダイナミックな話じゃなくて、ごく些細なコツだったりするのだ。

 ああ、後輩ができたんだなと思った。ぼくみたいな初心者も、デビュー前の中野さんにしてみれば、資格取得までのややこしく面倒なプロセスを経験した先輩猟師なのだ。

  ◇   ◇

 というわけで、一向に話が終わる気配がないまま、気がつくと2時間半経っていた。初対面だった診療所の飼い猫も、すっかり警戒心を解き、いまじゃぼくのヒザの上で眠りこけている。

 電話が鳴ったので出ると、「寒いよー」と娘の声がした。しまった、長くても1時間半程度と踏んで、家族を近くにある『国営アルプスあづみの公園』で降ろしたままだったのだ。閉園時刻が近づき、門の外で待っているらしい。家族の存在さえ忘れさせるとは、猟の話、恐るべしである。

 慌てて席を立ち、帰り支度をしているぼくを、眠りから覚まされた猫が一瞥〔べつ〕し、「ご苦労さん」とでも言いたげにニャアと鳴いた。

今回のイラスト