第3回 鹿太鼓とシカカバブ

 シシ鍋か、それとも鹿太鼓か――。同じ日に開催されるイベントのどちらへ行くか、朝から悩んだ。

 秋になると、信州ではあちこちで"新そば祭り"が開催される。そば好きのひとりとして、ぼくも無関心ではいられない...はずなのだが、目に入るのは熊や鹿、イノシシ情報なのだ。今年は熊の目撃情報がやたらと多く、連日のごとく猟友会出動のニュースが伝えられているからそれはわかるが、広告チラシに小さく掲載された"イノシシ祭り"に目が吸い寄せられるなんて昨年はなかったことだ。活字を追う目が、猟に関係するものを探し回っているとしか思えない。シシ鍋はうまい。鹿の皮を使って太鼓を作るのも興味深い。さてどうする。

 熟考の末、鹿太鼓にした。シシ鍋はこの先いくらでも食べるチャンスがありそうだが、鹿太鼓を自作する機会はそうそうないからだ。イベントが開催される松本市郊外の四賀ではこの日、たくさんのワークショップが開催されるので家族で出かけるにもうってつけ。相談の結果、ぼくは鹿太鼓、ツマは藁〔わら〕を使った鍋敷き作り、娘は色砂のオブジェ制作をやることに決まった。

◇   ◇

 2005年に、松本市に編入された四賀は自然豊かな里山。過疎化が心配される一方で移住者も多く、古民家を改装したカフェなどが点在している。そのなかのひとつ「COUDO〔クド〕」に行くと、鹿太鼓作りが始まろうとしているところだった。教えてくれるのは、長髪を束ねた半對屋雀斎〔はんずいやじゃくさい〕さん。あらかじめ穴があけられた鹿の皮を、小ぶりの陶器の上に広げ、1本の細縄で縫うようにして張っていく。コツがわかるとサクサク進み、1時間足らずで太鼓らしくなった。バチ代わりに使うのは鹿のあばら骨。叩くとポンといい音がした。楽器だからだろう、参加者は抵抗なく骨を手にしてポコポコやっている。どんどん作りたい人がやってきて雀斎さんは大忙し。「こんなに集まるとは」と驚いている。

 会場の隅には鹿肉が無造作に置かれていた。夕方から、焼いてふるまうという。やった、と喜んだが、なぜそんなことをするのだろう。鹿つながりということなんだろうか。

 ツマと娘のワークショップが終わったところで「COUDO」に引き返すと、肉を焼く匂いが漂っていた。メニューは桜のチップで軽くあぶった燻製と、もも肉の豪快なバーベキュー。汗だくになって焼いているのは...、あれ、雀斎さんではないか。しかも、焼き方が堂に入って、いかにも慣れている。てっきりミュージシャンだと思っていたが、もしかすると......。