第3回 鹿太鼓とシカカバブ
2014年11月
7日
移住者猟師が増加中?
「僕はわな猟をやってるんです。この鹿も自分で獲ったものなんですよ」
なんと猟師であった。もともとは東京でパン屋をやっていて、6年ほど前に伊那市高遠に移住したのだという。当初は趣味の絵画をやろうと思っていたが、害獣駆除によって処分される動物の皮や骨を再利用する方法はないかと考え、鹿アーティスト・半對屋雀斎を名乗って活動を始めたらしい。ナイフや包丁の柄を鹿の骨で作ったり、椅子の座面を鹿皮で制作したりするそうだ。年は下だが、猟師としても移住者としても、ぼくの先輩なのだった。
しかし、わな猟だと銃は使わないんだよね。かかった獲物はどうするんだろうか。
「通常はナイフで刺して仕留め、自分で手に負えないときは知り合いの猟師に頼んで撃ってもらいます。調理は得意だから解体もしますよ」
すでに一人前の猟師ではないか。しかも、動機が肉を売ることではないのがおもしろい。増えすぎた鹿を減らせという風潮の中、獲った鹿の皮や骨を生かす方法を考えているところも独特だ。
焼きたてをこそぎ取って食べる鹿肉はジューシーで、塩を振るだけでいくらでも食べられる。これはもう、シシカバブならぬシカカバブだ。あまりのおいしさに、雀斎さんの前には列が途切れない。しかも、前職を生かした焼きたてパンまである。さんざん肉を食べた娘は、土産に鹿肉バーガーを持ち帰ろうとする始末だ。
話し込むうちに日が暮れ、場内でウクレレライブが始まった。鹿太鼓を作りに来ただけだったのに、先輩猟師と知り合え、狩猟の話ができるとは予想外だ。いずれ雀斎さんの猟生活を見てみたい。
「いつでも遊びに来てください。山の上で一人暮らししてますから」
すっかりファンになった(肉の力恐るべし)娘が、自分も行きたいと言い出し、親子訪問を約束する。
◇ ◇
帰り道、ニヤニヤしていたら娘が言った。
「お父さん、新しい友だちができたね」
それもあるが、ぼくがこの日驚いたのは、先日会った安曇野の中野さんに続き、移住者猟師に出会ったことだった。猟師の減少を地元の人だけでは補えなくなっている一方で、他地域から移り住む人が狩猟を始める。いまのところ、その数は辞めていく人に満たないけれど、たしかにいるのだ。そこには、猟師の数を増やしていくためのヒントと希望があると思う。