第10回 出猟の朝
2014年12月
26日
午前4時半、時計のベルで起きるとストーブをつけて湯を沸かし、歯を磨いて白湯を飲む。前夜のうちに空気銃の準備は済んでいる。準備と言っても空気の圧縮と弾の確認くらいだが、圧縮は自転車の空気入れみたいたものを何度も押して行うので、朝やると寝ている家族を起こしてしまうのだ。空気銃の弾は鉛でできていて、ときどき混じっている形の悪いものを弾いておかないと精度が狂うことがある。狩猟免許はポケットに入っているか、ナイフや予備の弾は持っているか、素早く確認し、服を着替える。
極寒期には厚い防寒下着の上下を着こむが、年内は下半身は暖パン、上半身はフリース素材とウインドブレーカーで十分。あとは寒さに応じてネックウォーマーを使うくらい。昨シーズンは着込みすぎ、かいた汗が冷えて風邪をひきそうになったのである。いざとなればホッカイロで調整できるので、今シーズンはなるべく薄着で過ごしたい。
◇ ◇
5時前に家を出て、そっとクルマで走り出す。ヒーターが効き始めるまでの数分間、車内は寒く、ようやく頭が冴えてくる。出猟の日はいつも睡眠不足だ。前夜、興奮してなかなか寝付けないからだ。あの池で、鳥が奥のほうにいたらどうするか。手前にいたらどこから撃つか。距離が微妙なときは、そのまま撃つより少し離れたほうがいいのではないか...。想像しているとキリがない。
同じことはクルマの中でもしている。思い描くのはいいことばかりだ。青首を見事に獲ったはいいが、回収しにくいところにいってしまい、宮澤さんに頼んでカヌーを出してもらう場面などである。そんなことばかりしているとテンションが上がり、アクセルを強く踏みがちになるから要注意だ。
待ち合わせ場所はだいたい『八珍』近くの駐車場。国道19号線を長野市方面に走って50キロ少々、約1時間15分。銃を置いたままクルマを離れることはできないので、ひたすら運転するのみだ。
ぼくが好きなのは、うっすら夜が明けるにつれ、川面の風景が見えてくること。19号線は犀川沿いを走る道だから、川が良く見える場所をしょっちゅう通る。シルエットでしか見えなかった鳥たちが次第にはっきり見えるようになると、クルマを停めて窓を開け、水面でのんびりしている鴨の群れに見入ってしまうこともある。
東京へ単身赴任しているぼくが出猟できるのは、週に一度というところ。典型的な週末猟師と言っていい。それだけに昨夜から期待感が高まっているわけだが、犀川の鳥を見た瞬間、またギアが変わるのを感じる。猟が始まったと思うのだ。前回と比べて川の鳥は増えているか。いくつかあるダムのうち、どこがとくに多いか。データ収集して宮澤さんに報告するのはぼくにできる数少ない仕事の一つなのである。まぁ、具体的に役立つことは少なく、鴨情報の参考程度に過ぎないが...。
待ち合わせ場所で熱いドリンクを飲みながら作戦会議をして、池の巡回コースを考える。篠ノ井の里山一帯には貯水用の小さな池がたくさんあるのだ。コーイチさんが合流する日は、最近の猟果についての雑談も加わる。日が昇る6時半前後までは発砲禁止なので急ぐ必要はない。
池の水が凍り、鳥が川へ移動するまではそこを攻める、というのが今季の方針だ。回収がラクということもあるが、シーズン中に池の場所を覚えておけば、来季からは一人でも出猟できるだろうという宮澤さんの親ゴコロなのだと思う。