第9回 山の上の宴会

 初めて獲ったバンをもっとも美味しく食べる方法を考えていて、鹿太鼓作りでお会いした半對屋雀斎〔はんずいやじゃくさい〕さんに教えを乞うべきだと結論した。宮澤さんは店があるので忙しい。その点、雀斎さんは料理の腕も確かだし、マイペースの生活をしているようだ。連絡するとぜひいらっしゃいと言ってもらえたので、一家で訪問することにした。

◇   ◇

 雀斎さんの家は伊那市高遠の山の上にある。いまでは住む人がいなくなった廃村にひとりで移り住み、わな猟で獲った鹿の皮や骨を使った作品を制作しているのだ。

 道に迷いながら細い山道を登っていくと、集落らしきものが見えてきた。話には聞いていたが本当に人の気配がない。と、犬を連れた雀斎さんが笑顔で現れた。

「あ、利休だ!」

 鹿太鼓のときも雀斎さんと一緒だった甲斐犬を見てはしゃいだ娘は、玄関先でさらに喜びの声を上げることになった。

「ウサギさんがいる! ひつじもいる!」

 娘よ、庭には鹿の骨もごろごろしているぞ。

「知ってるよ。あそこにあるのは鹿の死体でしょ。雀斎さんが獲ったの?」

「クルマと鹿がぶつかったところに通りがかって、警察も困っているようだったので、おじさんが『猟友会の者です。処理します』と言って運んできたんだよ」

「ふーん。あとは何がいるの?」

「部屋に仔猫がいるよ」

「やった。上がっていい?」

 鹿に動じることもなく靴を脱ぐ娘。案外、腹が据わっているようだ。一方、ツマは古民家風の建物を使いやすく改造している点に注目した。

「この煙突は雀斎さんの自作ですか?」

「そうですよ。買うと高いので、何とか工夫しました。真冬は零下20度になるので薪ストーブなしではいられないですね」

「薪は自分で割るんですか」

「はい。いい運動になりますよ。野菜は畑をやって育ててます」

 害獣駆除の活動をしている雀斎さんは年間を通じて猟をしている。皮や骨は創作に使うが、肉は食べきれないので、近くの集落に持っていっておすそ分けする。そのお礼に野菜や果物をいただくことも多いそうだ。お互いに余ったものを交換するので負担はかからず、食費を稼ぐための労働時間を減らすことができるわけだ。壁には皮で作った服もぶら下がっていた。自然派志向の人が理想とする自給自足に近い形の生活がここにあるが、雀斎さん自身は淡々としていて、好きなように暮らしているだけだと笑う。