第9回 山の上の宴会

解体は羽をむしるところから

 鳥の羽は仕留めた直後は抜きやすいが、時間が経ったものは筋肉が硬直しているので、乱暴にやると皮がさけてしまう。抜きやすい方向を探して少しずつやるので時間がかかる。脂肪たっぷりなヤマドリはともかく、バンは皮ごと剥〔む〕く方法でもいいかと思ったが、今回のテーマは解体の基本を知ることと、自ら獲った鳥をおいしくいただくことなので手間を惜しんではならない。おっと、尾羽は記念に持ち帰ろう。

「残った産毛はバーナーを使って焼きます」

 さっとあぶるように表面を焼くまで、ざっと20分。解体に移る。包丁を当てる角度を間違うと肉が骨にくっついて残ってしまうが、わかっていても思うようには刃を操作できないのがもどかしい。何度もやって、カラダでコツを覚えていくしかないのだろう。

 バンの肉は赤く、いかにも味が濃そうだ。タン、ハツ、砂肝も取り出し、ヤマドリのものと並べてみた。さて、どうやって食すか。ヤマドリはやはり鍋が良さそうだ。脂肪が少ないバンは炭焼きにすることにした。

「絶品スープ。骨から出汁を取っただけのことはあるね」

 鍋を食べ始めてすぐ、ツマから称賛の声が上がる。鴨やキジより旨いと猟師が口を揃〔そろ〕えるヤマドリだけに、肉もクセがなくて食べやすい。これは贅沢〔ぜいたく〕な鍋だなあ。

 盛り上がっているうちにバンも焼けてきた。塩を振って骨付きモモ肉にかぶりつく。弾力性のある肉は野性味があり、これもイケる。ツマと娘は、断然ヤマドリ派のようだが、それは比べる相手が悪いのであって、バンにはバンの良さがある。噛〔か〕み締めるとジュワッと出てくる肉汁がなんとも言えない。

 驚くのは、野生の肉の持つエネルギーだ。せっかくの獲物を残すことは許されないとがんばって食べたが、ヤマドリと小ぶりのバン各1羽で4人が満腹になるのだ。我が家は家庭用の冷蔵庫だし、そんなに多くストックはできない。鳥を獲り過ぎないよう心掛けなくては...。

「1羽獲っただけでいい気になっちゃって。それより私は、雀斎さんのサバイバル技術を、あなたにも少しは身に着けてほしいと思うよ」

 軽くツマにいなされてしまった。

◇   ◇

 夜も更けたところで辞すことにした。次回はぜひ、わな猟を見学したい。銃を使わずに獲物をしとめる方法を知りたいのだ。

「お父さんたちが山に行ってる間、猫とウサギのお世話をしますから、私も連れて行ってください。鹿の解体も見てみたい!」

 娘もやる気マンマンだ。ま、いいか。こんなにエキサイティングな課外学習、そうめったにあるものじゃないのだから。

今回のイラスト