第8回 ついに獲物が獲れた!(後)
2014年12月
12日
銃を手に池の淵まで近づき、茂みに腰を下ろす。向こう岸までは50メートルほど。ぼくの存在には気づいていない様子で、動く気配がない。スコープを覗〔のぞ〕くと、バンの特徴である、黒っぽい羽根と赤い嘴〔くちばし〕が見える。
中腰になってできるだけ態勢を低くし、狙いやすい位置を探すが、照準がなかなか合わず、いったん銃を下した。標的を定める技術が低いため、スコープを覗き始めたときから息を詰めてしまい、時間の経過とともに呼吸が苦しくなるのだ。そうなるともうダメ。スコープの中心が上下左右にぶれ、制御不能になってしまう。
考えすぎては機を逸する。再び構えたぼくは、スコープの中心がバンの首にきたタイミングで引き金を絞った。が、コンマ数秒の遅れがあったのだろう。弾は大きく外れてしまった。く。またしても失敗か。がっかりしてその場を離れようとしたら、「もう1発」と宮澤さんが言う。バンが動いていないのだ。大きく上に外れたため、弾が水を叩かなかったと考えられる。警戒心が強い鴨はわずかな異変を見逃さないが、バンはその点、のんびりした性格なのかもしれない。
ラッキーチャンスの気楽さからか、今度は手元がぶれずにスコープを覗くことができた。中心にしっかりバンの首が入る。引き金を引く指に力が入りすぎないよう注意して発射。
スコープの中でバンの首がカクっと下がるのが見えた。泳いだり飛び立つのではなく、首だけが下がったのだ。も、もしかして、弾が当たったのか。動かないってことは当たったんだよな。
へなへなと腰を下ろす。気が抜けて、何のことばも出てこない。
「やりましたね。いいところに当たって、ほぼ即死したんじゃないかな。回収しに行きますか」
双眼鏡を覗いていた宮澤さんに言われ、タモ網を持って藪の中に走り込む。じわじわとヨロコビがこみあげてきた。やった、やった、ついに仕留めたのだ。ぼくが撃った弾が、鳥の急所を直撃したのだ。こんな日が狩猟解禁日に訪れるなんて......。
網が引っかかる木の枝に苦戦しながら向こう岸まで行き、池に浮かぶバンを回収した。枝で傷つけてはたまらないので胸に抱きかかえて移動する。何度も立ち止まってはしげしげと眺めてしまう。バンの身体は温かく、いまも生きているように思えた。
獲物はそのまま持ち帰るのではなく、その場で処理を施すのが原則だ。肛門から針金を加工したグッズを差し込んで腸を抜き、水場が近ければ、腹を少し割いて内臓を取り出しよく洗う。こうしておけば肉に臭いがまわることはない。
さらにいくつかの池をまわり、ヤマドリ生息地をチェックして(群れはいたがオスが発見できず)、10時に初日の猟を終えた。その間ずっと考えていたことがある。まぐれで的中したのか、それとも当たるべくして当たったのか、だ。