第7回 ついに獲物が獲れた!(前)

 狩猟解禁日、午前4時半起きで待ち合わせの"道の駅"に向かう。宮澤さんの知人であるコーイチさんも加わり、3人で"撃ち初め"だ。

「さて、どこからまわろうかな」

 林道へとハンドルを切りながら宮澤さんが言った。順当なら鴨の集まりやすい大きな池からだが、解禁日は猟友会メンバーたちが集まって鴨撃ちをやるのだそうだ。北信地域はもともと鳥猟の本場。近年、鹿やイノシシが増えてやる人が減ったが、この日ばかりは大物猟の人たちも池に集う。

「昔からの慣わしというのかな。池をぐるりと取り囲んで、鴨が飛び立ったところを一斉に撃つんですよ」

 その場所はわかっているので、別のエリアを見ていくことにした。距離的に空気銃で狙いやすい、小さな溜池を目指す途中、大きな池があったので念のため覗〔のぞ〕いてみると...下見時は影もなかったのに、今日はわさわさいる。すぐにエンジンを切って気配を消したが、敏感な群れが動き出したため、皆が中心部のほうへ移動し始めた。400メートルトラックの倍くらいの広さがあるのに、一部の動揺が短時間で波のように伝わって行くのだ。

 うーむ。ただでさえ動く獲物は狙えないのに、岸から離れられては手も足も出ないではないか。といって、音を立てて飛び立たせ、散弾銃で撃ったとしても、こちらに向かって飛んでくる保証はない。脅かされた鳥は当分の間、この池に近づかない可能性が高い。逆に言えば、無理して脅かさなければ、次に来たときもいてくれる確率が上がる。

 宮澤さんは即座に後者を選択。銃を置き、次回の攻め方を考えることにした。どこから接近するのがベストか、そのためにはどこへ車を停めればいいかの作戦会議だ。鳥の反応はそのときにならないとわからないが、空気銃発射後の動きをシミュレーションしておけば、チャンスが来たとき迷わずに済む。

「いた!」

 池を離れた直後、宮澤さんが畑の隅に立ち止まっているキジを発見。黒っぽいので、ぼくには一瞬カラスに見えたが、特徴である長い首と尾を覚えれば見誤ることはなくなる。さてどうするか。この位置関係なら車のそばから撃てそうだ。

「いや、コーイチに撃たせよう」

 キジのそばにはススキの茂みがあり、気配を察知したらおそらくそこへ逃げ込む。ならば、宮澤さんより腕の落ちるコーイチさんでも仕留めやすい。

 銃を持って歩き出したコーイチさんに気づいて、キジが茂みに隠れた。予定通りだ。宮澤さんは逆サイドから忍び寄り、コーイチさんが仕留めそこなった場合に備えている。いわば挟み撃ちの格好だ。が、思ったよりススキの背が高く、コーイチさん側から宮澤さんが見えない。それでは危険だと、宮澤さんが数メートル戻ったとき、いきなりキジが飛び立った。