第10回 出猟の朝

弾は水面を叩かなかった?

 宮澤さんのクルマに同乗して出発。細い農道を走るには軽トラックが最強で、2000CCあるぼくの4WDだと脇見していたら脱輪しかねない。また、鳥に気配を悟られないためにも台数は少ないほうがいい。

 池に接近するとスピードを緩め、そっと様子を窺〔うかが〕う。いるか、いないか、緊張の一瞬だ。だいたいは助手席にいるぼくが見極め役である。

「いた!2羽、いや3羽かな。奥のほうに固まってます」

 上ずった声で報告すると、宮澤さんが双眼鏡で確認。

「バンかな。いや、オオバンだね。残念でした」

 くー。狩猟禁止のオオバンが、今年はやけに多いのだ。渡り鳥の鴨が増えてくるのはこれからとはいえ、こんなにオオバンを目にしたことは、長年ここで猟をしている宮澤さんでも記憶にないという。せめてバンならなあ。唯一仕留めた鳥で相性がいいはずなのに。

 しかし、めげずに動いていると運が向いてくる。比較的小さな池に、どっさり鴨がいたりするのだ。バンを獲って以後、何度か鴨を狙ったが、まだ当たったことがないぼくは、これ幸いと銃を担いで飛び出す。そしてこの日、願ってもないチャンスが来た。

 5羽の群れが、30メートルの距離に浮かんでいる。土手からそっと覗〔のぞ〕いても感づかれている様子はない。銃を構え、スコープで青首を探した。弾を銃身に押し込み、首を狙う。まだ動かない。5羽もいれば敏感な1羽に察知され、その鳥が動くとともに群れも落ち着きをなくすのが常。そうなると的中率はとたんに落ちる。だが、気づかず距離を詰められたときは、じっくり狙いを定めることができ、撃ち手が有利になる。

 スコープの中心に青首が入った。初日のバンと同じパターンだ。これは、獲れる。力を入れないように、引き金を手前に引く。

 パシュ。

 一斉に鴨が飛び立ち、宮澤さんの散弾銃がメスを撃ち落とす。が、青首は逃げた。当たるはずだったぼくの一撃は逸れてしまったのだ。

 おかしい、納得がいかない。鴨に気づかれず、手の震えもなく、万全の状態で撃った弾がかすりもしないとなると、この先の猟が不安になるではないか。しかも、外した弾が水面を叩くところも見た記憶がないのだ。

 まさか...。銃を取り出したぼくは、その場に座り込んでしまった。ぼくの銃はセミオートマチックで、5発の弾を自動装填できる。今日は最初に2発撃ち、3発目が青首だったから、2発残っているはずだ。

 3発残っていた。絶好のチャンスでぼくが撃ったのは、たぶん空砲だったのだ。弾がないと押し込めないはずなのに、どうしてそうなったか、謎である。

 でもまぁ、理由がわかっただけでもいいか...。

◇   ◇

 悔やんでも悔やみきれない気持ちで帰路につく。犀川にいる鴨を見つけるたびにタメ息が出る。そして思うのだ。次回は必ず仕留めると。この繰り返しで今年が暮れていくのだろうなあ。

  今回のイラスト