第14回 ジビエ忘年会を開催

 初めての猟果の記念にと、知人からプレゼントを貰った。美しい写真と、野鳥や獣の解体法、料理レシピが載った『料理人のためのジビエガイド~上手な選び方と加工・料理』(神谷英生 柴田書店)なる本である。プロ向きの実践的な内容で、いずれ獲れるようになったら購入したいと思っていたが、いただいた以上は役立てたい。

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 なぜなら、狩猟生活をトータルな意味で楽しむには"食べる"要素が欠かせないからだ。ジビエという言葉が一般的に使われる程度には、山の肉への注目度も上がってきたご時世に猟師になったのだから、鍋か焼肉の二択ではなく、いろんな料理を味わってみたい。

「そんなこと言って、お父さんジビエの料理作れるの? 私、これまでお父さんの手料理はオムライスくらいしか食べたことないよ」

 む。娘にからかわれているようじゃ道は遠いなぁ。本を読んで勉強します。

「ジビエ忘年会をやろうか。冷蔵庫の肉を、なんとかしたいと思っていたのよ」

 ツマに言われて、それもそうだと思った。我が家の冷蔵庫は先輩猟師からいただいた肉で満載なのだ。イノシシ、鹿、キジ、熊のモモ肉までどっさりある。一家3人で食べきるには多すぎるし、熊など食べる機会はそうそうない。我が家だけで独占するのはもったいないというものだ。近所の友人を招き、思い切り食べてもらおう。

「相当な量だから、飽きない工夫が必要だよね。メニューの研究をしなきゃ。どういうお酒に合わせるかな。ワインかな、やっぱり」

 酒好きなツマは、飲むものに合わせてメニューを考え始めた。『料理人のためのジビエガイド~上手な選び方と加工・料理』には、鹿肉と白無花果〔いちじく〕のサラミであるとか、イノシシとドライトマトのパテ、キジのパイ包み焼きなど凝った料理が多い。家で作るには難易度が高いので、今回はステーキの参考にとどめ、ネットなどで情報収集に励む。

 ぼくの出番は、肉を切るとか、鍋に入れる野菜の買い出しとか、著しく限定されてしまったが、人様に振舞うことを考えればそのほうがいい。それに、ツマがジビエ料理に開眼してくれたら、ぼくが今後どんどん獲ってくる(予定の)鳥にも関心を持ってもらいやすい。

 "獲ったら食べる"は猟師の基本。しかし現実には、大物猟をやる人など、家庭内消費量を大幅に上回る肉が手に入ってしまい、家族に飽きられてしまうケースも多いのだ。それを防ぐには、普段食べている豚、牛、鶏と同じ気楽さで、山の肉に親しんでいくのが近道だと思う。

 検討の結果、当日の献立が以下のように決まった。酒はワインと日本酒を想定。

[前菜] オイルフォンデュ(野菜各種。バーニャカウダのソース)
[肉その1] 熊と鹿のラグー(赤ワイン、スパイス、ハーブ、セロリに浸して一晩置き、軽くソテーしてから圧力釜でトマト煮に) 
[肉その2] イノシシと大根の煮物(前日仕込みで味を行き渡らせる)
[肉その3] キジのコンフィ(アヒルの油脂を使用 マスタード添え)
口直し 
[肉その4] 鹿のステーキ(塩麹をたっぷり塗って一晩置く)
[肉その5] 熊のステーキ(塩麹バージョンと、味噌バージョン)
[肉その6] 猪鍋
[土産] 余った肉をおすそ分け

 どれだけ食べさせりゃ気が済むんだという、山肉フルコースだ。