第14回 ジビエ忘年会を開催

一番人気はラグー?

「長野県に住んでいても、野生の肉を食べる機会はそうそうないです。おなか減らしてきました。さぁ食べますよ、トロさんが獲った肉」

 違うって。全部貰〔もら〕いものなのです。

「猟師になったからこそ、仲間と認められ、おいしい肉が手に入るんですから、どっちにしてもうれしいです」

 カップル1組がこれなくなり、客人は3名。ワイン片手にスタートした忘年会は、ラグー登場を境に肉食いモードに突入した。事前に量の多さを伝えていたので、それぞれ気合が入っている。

 関心を集めたのはやっぱり熊。最初は恐る恐る口をつけたが、思いのほか食べやすい味だったらしい。ツマと娘はすっかり気に入り、今後の定番メニューにしたいと言い出した。

 個人的に盛り上がったのはキジのコンフィ。どうしてもパサつきがちなキジ肉が、アヒルの油脂で香ばしく焼きあがっている。適度な歯ごたえもあり、鳥撃ち猟師として、なんだか誇らしい気分だ。鍋はヤマドリに任せ、キジや鴨はコンフィにするのがいいかもしれない。

 ステーキに使った鹿の肉は肩ロース。タタキにしたら絶品なのは経験済みだったが焼いてもうまい。熊もそうだけど、塩麹づけにしたのが功を奏したようだ。熊は味噌ともよく合い、煮込んで良し、焼いて良し。

 だが、開始からすでに2時間。メンバーの限界は近づいていた。

「まいったなあ。どれもおいしいし、お酒にも合いますよね」

 絶賛しつつも、料理が減っていかないのである。猪鍋は無理と判断し、熊とともに持ち帰ってもらうことにした。

◇   ◇

「猟師になってから、今日ほど喜ばれたことってないんじゃない?」

 ツマに言われてニヤついていたら、すかさず娘から釘を刺された。

「でも、お父さんは何もしてないね。みんな、お母さんの料理が上手だってホメていました。がんばったのはお母さんです。それから、鹿やイノシシや熊を獲った猟師さんもです」

 わかった。次回こそ鳥を獲ってくるよ。失敗ばかりで鴨も油断してるはずだ。またアイツが来た。どうせ当たらないよと。そこを一撃、ズバッと決める。今日は鴨がなかったし、まだ食べたことがないカルガモはどうだ。この前、群れでいるところを見かけたんだよ。回収場所も考えてあるから、一人猟が可能だ。料理法は、この本によるとスモークするのがいいらしい。カルガモは鴨特有の血の味が強くなくて食べやすいと書いてある。お母さんに任せきりにはせず、解体から料理まで、お父さんひとりでやってみるよ...。

 誰も聞いちゃいなかった。なおも話しかけると、台所で食器を片づけていたツマと娘が、やれやれという顔で言った。

「悪いけど、しばらく肉は食べたくない」

「ワタシも。だからお父さん、撃つの失敗してもいいからね!」

今回のイラスト