第15回 はじめての巻狩り(前)

大物猟はセコとタツマの共同作業

 狩りの場所は目の前にある大明神山(1642メートル)。現在地点(標高約750メートル)から、高低差400~500メートル、幅500メートル程度の南西の斜面が本日の狩猟範囲となる。登山と考えればさほどではないように思えるが、急こう配の上、登山道もなく、雪がたっぷり残っているので歩きにくそうだ。

 役割は、追い出し役のセコ(勢子)と、撃ち手のタツマ(立間、タツとも言う)にはっきり分かれ、銃を持たないぼくは自動的にセコを務めることになる。まぁ、仮に散弾銃を持っていても、未経験では役立たずだからやっぱりセコなんだが...。

 今回セコをやるのは15名ほど。人間による壁を作る感じで、斜面の西側に50メートル間隔くらいで上から並び、合図とともに声を出しながら東に移動して獲物をタツマが待つ方向に追い込んでいく役割だ。

 タツマは4チームに分かれ、要所を固めて獲物がやってきたら撃つ役割。主要なのはケモノ道に沿った斜面や沢沿いだが、獲物がセコのラインを突破して逆方向に抜けるのに備え、セコの背後にも数名が待ちかまえる配置だ。

 こう書くと、セコよりタツマが大切だと思う人がいるかもしれないが、セコのトップは全体を把握し、司令塔の役割を果たす。どんない射撃がうまいタツマがいても、獲物がやってこなければやることがない。とくに犬を使った猟では、セコの能力が猟果を左右するのではないだろうか。

 広い斜面を、それだけでカバーしきれるのかと素朴な疑問が浮かぶが、追われた獲物の動き方を熟知する猟師にとっては、これで十分。全部獲らねばならんというものではないし、そもそもそんなことは難しい。猟は人間と動物の知恵比べでもあって、こちらが用意した作戦の裏をかかれたら、相手が上と称えるしかない。聞けば、昨日の時点で鹿や猪がいることは確認済み。前回の合同捕獲では鹿4頭を捕獲したので、手ぶらに終わることはないだろうとの予想だった。

「それでは皆さん、怪我のないように、よろしくお願いします」

 リーダーが声をかけ、一同外へ。時計は8時をまわり、気温が上がってきている。これから歩くとなると体温が上昇しそうだ。

 猟師たちは出発前に一服したり、地図に目を落としたり、リラックスした表情。銃を担いでいるので勇ましく見えるけれど、それがなければ人の良さそうなおっちゃんの集まりにしか見えない。

 でも、山に入ると表情が引き締まり、おっちゃんたちはみるみる勝負師の顔になった。足取りも軽く、雪に覆われた斜面を力強く上っていく。歩き始めて20分。ぼくは早くも息切れ寸前、ついていくのがやっとだ。

今回のイラスト